「食からはじまる新しいコミュニケーション」日髙良実さん
15周年スペシャルインタビュー企画。最終回は、イタリア料理店オーナーシェフ 日髙良実さん(以下=日髙)のスペシャルインタビューをお届けします。
日髙さんはこの15年を振り返ると、料理が変化したなと思われることはありますか?
日髙料理全般的に、すごく高度化しましたよね。料理を科学的に学ぶ人が多くなりました。例えば、肉を低温でゆっくり調理するとやわらかくなるとか、強火で焼くと化学反応がおきておいしくなるとか、温度や分量なども細かく数値化したり…。
もう、ついていけませんね。(笑)
料理の科学は世界中で注目され、日本国内でも実践するシェフも増えました。
でもその料理の変化があるから自分の道が見える。自分はこれまで通り、ベーシックな調理法を大切にやっていこうと思います。
それから、料理の発信方法も変わりましたね。コロナ禍でやむなくYouTubeを始めたのですが、今ではお客様に一番近いメディアになっています。店を始めて32年ですが、この2年間はYouTubeを見て訪れる新しいお客様に恵まれました。
コロナがきっかけではありましたが、一歩踏み出したことで、新しい世界が広がってよかったと思っています。
日髙さんが料理において、大切にしていることを教えてください。
日髙その土地で採れるものを、工夫して代々受け継がれてきた郷土料理、伝統料理を大切にしたいですね。日本でも、イタリアでも食べ歩いて、そういった料理を発見したり、再確認したりしています。各地方においしい郷土料理があり、それを融合させているのが、東京のイタリア料理ですね。それが自分のステージです。
店では、日本の旬の食材を使ったイタリア料理をメニューにしています。冬は、たらや白子などの海鮮も使っていますし、春なら山菜なども使います。山菜はイタリアンと相性がよく、油やチーズ、生ハムなどと合います。パスタにするのもおすすめですよ。
「みんなのきょうの料理」で特に人気がある日髙さんのレシピは、「カルボナーラ」です。2007年の放送からずっと人気を博しています。その秘密はどこにあると思いますか?
日髙「カルボナーラ」は、自分がイタリアンの道を選ぶきっかけになった料理です。実は最初は、フランス料理店に就職が決まっていたんですが、入社までの4か月間、イタリア料理店でアルバイトをしていました。賄いで「カルボナーラ」を食べさせてもらっていたのですが、毎日食べても飽きなくて。(笑)
就職後も、その味が忘れられず、毎日食べても飽きないイタリア料理がいいな、と思わせてくれました。
イタリア料理に転向したのち、イタリアでの修業時代に下宿先の近くにあった小さな店の「カルボナーラ」にも感動しました。この店の「カルボナーラ」は生クリームを使わず、クリーミーというより、卵は炒り卵みたいでしたよ。でもそれが普通なんだと気づかせてくれました。このレシピは、そのおいしさを再現したものです。
みなさんがつくるときも、卵がダマになってもいいんです。恐れずつくってくださいね。
日髙
情報の発信の仕方を進化させていきたいですね。
例えば、動画の配信をしていると、毎回気づきがあります。テレビと違ってYouTubeなどの料理動画は、繰り返し見る人が多い。細かいところも見ていますね。調味料のラベルなども一時停止して確認するなど、おそるべしです。(笑)
でも、それだけおいしい料理をつくることに興味を持ってくれているということだと思うんです。
長いおうち時間の影響で、料理をつくったことのない人も、YoutubeやSNSを見てイタリア料理に興味をもってくれた人が増え、それをきっかけにレストランにも足を運んでくれ、料理界に貢献できているんじゃないかと思います。そんなこともあって、昨年「現代の名工*」に選出していただいたのかもしれません。
みなさんにもっと料理を楽しんでもらえるよう、家庭でもつくりやすい料理を提案・発信しつづけたいと思います。
日髙動画を見てくれた人からは、うれしいコメントをいただきます。「シンプルにつくれておいしかった」「夫や彼氏がコロナを機に、時間があったから動画を見て料理をするようになった」と。
料理をするようになると、片付けも自然と手伝ってくれるようになり、そうすると関係が円満になってくるんですね。興味を持って料理をつくりだすと、会話も生まれるし、家の中がハッピーになる。
また料理をするようになると、食べるのも好きになり、例えば友人と食事にでかける機会も増えるようです。食がきっかけでコミュニティができるんですよね。
「つくってみておいしかった」ということがきっかけで、料理に興味を持ち、さらにコミュニケーションが生まれて、ハッピーな人間関係が広がっていくと思います。
ぜひ、みなさんも、まずは料理をつくって「おいしい」と感じるところからはじめてみてください。
日髙良実さん、これからもおいしい料理を楽しみにしています。
ありがとうございました。
*「卓越した技能者(現代の名工)」表彰制度
卓越した技能者を表彰することにより、広く社会一般に技能尊重の気風を浸透させ、もって技能者の地位及び技能水準の向上を図るとともに、青少年がその適性に応じ、誇りと希望を持って技能労働者となり、その職業に精進する気運を高めることを目的としています。(厚生労働省ホームページより)